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投稿者 高野弘幸
作成日 2018-08-05 (日) 21:43
ㆍ照会: 89  
自選詩集「白鳥の航跡」2

シジフォスへのソネット

あなたは重荷を負って山を登る

しかし あなたは跳ばねばならない

あの高みに達するために

彼らは 見知らぬ地での 死のパスポートを作っている

 

徒労の岩が 山から落ちる

またあなたは やり直さねばならない

葉の落ちた枝の向う側に

誰かが祈りを唱えている

 

あなたの知らない栄光が輝く

輝く空の極みには

あなたのいのちの輝きの如く

 

憂いを知らぬ鳥が飛ぶ

薔薇の花が吐息つく夕暮れには

あなたは 再び山を登り行く

真夏の孤独

日差しが遠ざかり

やがて空は紫に変わる

刻々とうつりかわる色をながめ

砂時計を見つめる

 

思い出は遠く果てしなく

若きより慣れた孤独

歳を経て心の傷みは増え

なお明日に希望を置く

 

人づきあいはむずかしく

沈黙を守る

交差した流れ星のように

去って行った人々

 

人の世に住むことに

うみ疲れた朝

この世のしあわせをあきらめ

雲のふるさとにあこがれ

一通の手紙を机に残し

ただひとり山にのぼった

 

幾人かの友だちは

ふと街角を曲がるように

目に見えぬ踏切の向こうに

既に転居した

 

サンザシの生垣を過ぎ

エニシダのある牧場をながめ

古びた木の橋を渡り

過ぎし日々を思い出し

浮かんでは草むらに消えてゆく

数々のこころの傷

 

ヒバリの声があたりにひびき

ウグイスは山間を渡る

アケビの実を手に取り

谷川の傍らで水筒の水を飲み

山道を行けば

頂上にたどりついた

 

小さな温泉に入り

田舎料理をいただき

花を摘んで花束を作り

夕映えの道を帰る

錆びたカミソリの刃を通り過ぎ

紫の雲をながめ

畦道を通り過ぎ

家にたどりつくと

手紙は既に無くなっていた

 

 

 

桜の園

存在の羽毛のような軽さ

花吹雪

飛び立つ鳥

果てしない女たち

 

ああ もうどこかで樹を切る音が聞こえる

 

我が町

遠山に日が射す丘の上に

子どもたちがいつも集まっている

このあいだ父を亡くしたゲンちゃんや

学校に行けないせいちゃんの家に

誰かがいつも行ってなぐさめている

 

自転車屋の仕事()

新聞を広げて油を売っているひとがいて

釣りの自慢話に タイヤをまわしながらあいづちを打っている

時々しんみりしているのは身の上話だ

 

裏山では樹々が頬を染め

少年たちは草を敷いて

将来の夢を語り合った

 

木陰の昼休み 将棋をさしている人の顔に風が吹き

子どもたちがザリガニを持って帰ってくる

店先で大根を持っている先生が微笑んだ

地面にハングルを書いている少女に

通りがかりの人が読み方を教わっている

枝ぶりがみごとですね

木蓮の花を見上げながら

車椅子の老婆があいさつしていった

 

人間ってまんざらでもないな

暴走族の青年がバイクから下りながらつぶやいた

もう星が軒先からこぼれている

 

そんな町を夢見るとき

私たちは 何を失ったのか

LIFEという名の交差点

―変わりゆく時代のなかで―

老いた人、若い人

それぞれの思いと重荷を背負い

それぞれの過去の悲しみを秘めて

それぞれの未来を望みながら

通り過ぎてゆく

ここは現在 LIFEという名の交差点

 

小鳥が歌うように

飛び交って大空をよぎる

明るい子どもの歌声のように

ここでは過去にいくさがあった

ここで未来にいくさがあるだろうか

ここは現在 LIFEという名の交差点

 

通りすぎる人々は

黙って横切り行く

その運命は迷宮の中

豊かな雨が降り注ぐ

ここは現在 LIFEという名の交差点

夏にとりのこされて

夏の花が咲くように

多くの恋が芽生えただろう

夏の花が散るように

多くの恋が消えてゆく

美しい日々は過ぎて

思い出ばかりが心をよぎる

夏にとりのこされて

コオロギの夜のソネット

薄桃色のたそがれは

紫の雲につつまれる

自分の弱さを しみじみと思う夜

コオロギの声が 聞こえる夜は

 

この世から転居した人々は

空の彼方に 安らいでいる

またたいている 星座がある

悲しみの向うがわには

 

つまずきの石 後悔の谷

かつては野薔薇が咲いていた

歩んで来た道に

 

しみじみと コオロギの声に

いつのまにか 雨が降り出した

つくづくと 自分の弱さをながめる夜に

秋の歌

わがこころ 粉々に 砕け散りたり

思い出をひろいあつめ ささやかに(だん)をとる

うららかな春の日 丘の上に登りし 若き日よ

ああさらば 左様なら 輝かしき夏の光よ!

この上は悔いを滅ぼし

残された勤めを果たし

静かにぞ余生を送らむ

わが前に 一条の紫陽花色の道はつづけり

永劫の旅人は帰らず

秋の風鈴

秋の風鈴が あちらこちらで鳴っている

その()が心に沁みる日は

何するともなく 時が過ぎてゆく

 

様々な思い出が通り過ぎてゆく

心の中を 夢の中を

アイス・コーヒーを飲んでみる

少し癒やされたような気がする

 

報われたこと 報われなかったこと

成功したこと 失敗したこと

 

秋の風鈴が あちらこちらで鳴っている

その音が心に沁みる日は

 

電通へのツイッター

それは悲しいクリスマスの夜だった

歩き方も知らないうちに走り出した

休み方も知らないうちに働き出した

靴の紐を結んでいる間に追い越される

そんな時代はもう終わったと

誰も言わなかったのか

 

海辺のうた

作詞:高野弘幸  作曲;瀬尾はやみ

 

空をながめ 海をながめ 森をながめている

ひとりのわたし

やがて()はとっぷりと 暮れてゆく

波は優しく 寄せてはかえす

あの日とちがって

 

あなたの傷も わたしの傷も 

少しずつ 少しずつ 癒やされてゆく

けれど あの日消えたいのちは

いまはどこに

 

み国にやすらいでいるのか

大空をさすらっているのか

だれも知るひとはない

ただ波が寄せるだけ

だれも知るひとはない

ただ風が吹くだけ

 

空をながめ 海をながめ

森をながめている

ひとりのわたし

やがて()はとっぷりと 暮れてゆく

波は優しく 寄せてはかえす

あの()とちがって

 

*この歌は東日本大震災をテーマにしました。

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