掲示板 (ご自由に投稿)
掲示板
投稿者 高野弘幸
作成日 2018-08-05 (日) 21:44
ㆍ照会: 22  
自選詩集「白鳥の航跡」1

 

白鳥の航跡

自選詩集

 

高野弘幸

2018/08/01

 

 

 

 

春の日のソネット

私の心の奥を かりたててやまない

ものは何だろう それは風 それは花 それは愛

私は(とし)をとり 身体(からだ)はおとろえ

疲れはてた それでも遠くから 私を呼ぶ声

 

()にむらがる(すずめ)の歌が 歌いやまない

桜が咲き()め ()きとおる空が青い

村々で 娘たちが リボンを(むす)んでいるだろう

ひそやかな祈りを 誰かが誰かのために 祈っているだろう

 

明日の朝 目覚(めざ)めるとき

服を着 リュックを(かつ)ぎ 行く道は町へと続き

明るい光が おとろえた身体をつつむだろう

 

私の心の奥を かりたててやまない

ものは何だろう それは風 それは花 それは愛

桜が咲き染め (ほお)を吹く風はまだ肌寒(はださむ)

乳母(おんば)日傘で大きくなって

乳母日傘で大きくなって

人並みの労苦をし

世間しらずと言われながら

誰にも媚びず

六十余年の月日が流れた

人に勝とうと思わなければ

日々の暮らしは立つ

乳母日傘で大きくなって

私のハックルベリー時代

蜘蛛の巣だらけの教室の天井裏

78人並んでビンタを食らった

缶詰めのランチは田園のなか

ザリガニを焼いて食った

銃撃戦の原っぱ

 

ダンプに危く衝突 赤信号で渡り

Tシャツにバンパーの筋が残り

野原をどこまでも歩き

屠殺場だった板塀の建物に牛の首

あのころの悪童の友人たち

思い出す ロッキングチェアに座し

 

雨上がりのソネット

孤独は雨のように 遠い空からやってくる

孤独は小鳥のように 梢の上に止まっている

目につくことのない花のような孤独

が濡れた葉の下でひっそりと息づいている

 

谷を超えて 大きな河が流れ行く

行くものはかくのごとく 昼夜を分かたず去ってゆく

人々の対話のなかにさえ すりきれて 満たされない孤独がある

それは星のように 小さくまたたいている

 

だれもいないドームの時刻

ひとしきり たたきつける雨がある

ぬかるみが石のように黙っている

 

雨が上がり 春の陽の光が輝く

孤独は雨のように 遠い空からやってくる

そして 遠い空へ 雨のように去ってゆく

 

名前のない川

名前のない川に

思い出は降る星のように

そのきらめきのひとつひとつが

昼夜を分かたず去って行く

何という困難があったことだろう

 

名前のない川の向う岸

純白の霧の中に包まれた菜の花畑

モンシロチョウが飛んでいる

失われたさまざまの夢がまたたいている

私が歌った遠い調べ

 

名前のない川に

また春が来て

長い物語を語りはじめる

私はひとつの矜持を持って

その物語を聴きはじめるだろう

 

マクベス

だれの人生にも一度はある

こんなはずではなかったと

時は静かに流れ行き

バーナムの森がやって来る

 

後ろから火が追いかけてくる

風にも似た運命が追いかけてくる

忖度はできない

蜘蛛の巣城に立て籠り

 

地に落ちた正義が(とき)の声を挙げ

トランペットが鳴り響く

明日が来 明日が去って行く

世の終わりにたどり着くまで

 

 

カフカの城のように

いくつもの森を過ぎ

いくつもの泉をめぐり

いくつもの峠を越えて

いくら歩いても たどりつかない

カフカの城のように

 

いくつもの本を漁り

幾人もの人に道を尋ね

幾人もの娘に挨拶し

いくら歩いても たどりつかない

カフカの城のように

 

いくつもの問いを解き

いくつもの病を癒し

いくつもの年月が過ぎ

いくら歩いても たどりつかない

カフカの城のように

 

涙の雨が降る

滝のように降りそそぐ雨は

流すことさえ出来なかった

多くの人々の涙の雨

この世界は涙の谷

涙が胸を潤すこともある

黙殺された人々の

涙の雨が降る

 

健礼門院右京大夫集

絢爛たる王朝は跡方も無く費え去った

あまたの貴公子が戦いに消えて行った

 

今はただしひて忘るる いにしへを思ひ出でよと すめる月かげ

しづやしづ しづのおだまきくりかえし むかしをいまに なすよしもがな

 

佳人の嘆きは歴史の彼方に消えて行った

 

廃墟の街

シャッター通りを行けば

収賄疑惑と書いた新聞が風に舞い散る

老婆が瓦礫の山を見ている

シンデレラが(ほうき)で掃除をしている

派手なサーカスのポスター

私は恋人と歩いてゆく

この廃墟の街を

 

タイヤ工場の裏では

ガスマスクを着けた男たちが化学兵器を作っている

(べん)(がら)格子から透けて見える娼婦は団扇を(あお)いでいる

神社の鳥居から奇妙な果実のように人がぶら下がっている

露店では偽造のパスポートを売っている

私は恋人と歩いてゆく

この廃墟の街を

 

藤子・F・不二雄が窓辺でラーメンをすすっている

隣の窓辺の貴婦人がペニチュアに水を注ぎながら

声をかける「今夜はどう?」

下からスネオが嫉妬して眺めている

サマーカットしたポメラニアンが熱中症で死んでいる

私は恋人と歩いてゆく

この廃墟の街を

 

向うから金正恩が歩いてくる

「やあ」と彼が手を振る

振り向けば黒服の男たちが並んでいる

親切なタクシー・ドライバーが扉を開けた

風呂屋の暖簾からダーティ・ハリーがライフルを構えた

私は恋人と逃げて行く

この廃墟の街を

番号     タイトル  投稿者 作成日 照会
4150 子どもの自殺、夏休み明けに突出 子どもからのサインは? 高野弘幸 2018-08-19 17
4149 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-19 5
4148 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-18 55
4147 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-17 53
4146 朝日新聞「消された戦争」3 高野弘幸 2018-08-16 75
4145 今日のみことばとわたしの祈り 高野弘幸 2018-08-16 2
4144 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-15 11
4143 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-14 12
4142 臨床心理金言集2 高野弘幸 2018-08-13 14
4141 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-13 20
4140 臨床心理金言集 高野弘幸 2018-08-12 12
4139 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-12 14
4138 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-11 15
4137 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-10 20
4136 中井久夫「世に棲む患者」 高野弘幸 2018-08-09 16
4135 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-09 19
4134 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-08 19
4133 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-07 22
4132 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-06 26
4131 自選詩集「白鳥の航跡」1 高野弘幸 2018-08-05 22
4130 自選詩集「白鳥の航跡」2 高野弘幸 2018-08-05 17
4129 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-05 20
4128 私が輝いていた時代 高野弘幸 2018-08-04 15
4127 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-04 23
4126 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-03 29
4125 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-02 23
4124 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-08-01 30
4123 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-07-31 27
4122 今日のみことばと私の祈り 高野弘幸 2018-07-30 30
4121 夏休みの思い出 高野弘幸 2018-07-29 30
12345678910,,,139
 
     
  〒659-0012 兵庫県芦屋市朝日ヶ丘町 10-35-504
TEL:090-3945-3373 / FAX:0797-38-6868
Copyright(c)2013 レホボト・ジャパン All rights reserved.