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投稿者 高野弘幸
作成日 2013-04-15 (月) 23:00
ㆍ照会: 2028  
希望の子育て 第1章

第一章

忘れられた世界・統計上の思い出

 

 どうやって子どもたちの自信と自己価値感を高めるか、ということを考える旅に出る前に、まず私たちの住んでいる世の中の流れを見つめ、この50年間に世の中がどう変わったかを(なが)めてみることが良いと思います。自己価値感と自信は、まず私たち自身が何者であるかを正しく認識することから芽生えます―安定し、幸せに養育されるほど、私たちは人間として自分自身をポジティブ(訳注:肯定的に。以下同じ)に感じるようです。子どものときに安定感とサポートを得ることが少なかったほど、私たちは後の人生で心理的な悩みをかかえがちであるようです。

 

 この章では、この50年間に起こった社会の変化をながめ、その変化と心理的な病とがリンクしていることを追って見ましょう。

 

家庭生活

 1950年代の家庭生活は、私たちが(いとな)んでいる21世紀の家庭生活と非常に違っていました。社会の標準では、たいていの子どもたちは、お母さん、お父さん、兄弟姉妹と一つ屋根の下で暮していました。また子どもたちの近所には、親戚縁者、すなわち、祖父母、おばさんたち、おじさんたち、いとこたちが住んでいたものでした。家族の一団は、少なくとも外見上、非常に親密につながっていたと見られます。しばしば、年老いた祖父母は、自分の子どもたちや孫たちと同じ家に住んでいました。子どもたちは、両親だけなく、兄弟姉妹や、親戚縁者との関係を育てる機会に恵まれていました。多くの点で、これは非常に健康的なことでした。実際、英国の外にある多くの文化と、外国の少数の文化がそこで維持されていたことは、なかなか意味のあることでした。

 

 21世紀になり、多くの家族の(きずな)は、1950年代のありさまと比較して、急激に変わりました。例えば、かつてあった人間関係は、大きく次々と壊れてゆきました。別居と離婚は、かつてよりずっとありふれたことになりました。1961年の英国では、離婚は27、000件をちょっと超えるくらいでした。2003年では、166、000件以上です(原注1)。結婚という慣例もまた、一般的に減少しています。2001年のイングランドとウェールズでは、結婚は249、227件に過ぎません。これは、1897年以来、最低の数字で、1973年以来、長年に渡って減少傾向が続いています。家庭生活が比較的安定しているかどうか、という観点から見れば、1950年代と21世紀を比較する図は、最近になって家庭環境が不安定になったということを示しています。

 

 出産率もまた、この40年間でドラマチックなくらいに落ちました。ブリテン島で何年も前から普通に考えられていることは、自分たちは平均2.4人の子どもを生み出す国だということです。しかしながら、英国全体では、出産率はもっと落ちています。ここ数年以上に渡って、出産率(女性1人が子どもを産む数字)は、1964年のベビー・ブームのときの2.95人に比べて、2003年には、1.71人に減少しています(原注2)。この数字が指し示していることは、今日では、多くの子どもたちが心配事や恐れを経験したとき、それを分かち合ってくれるきょうだいのサポートがない家庭に産まれてくるということです。

 

 これらの変化が広がってもたらす影響は、私たちの子どもたちが、以前の世代と同じような情緒的なサポートを得ることができないということです。

 

仕事の世界

 1950年代には、人々はもっと単純に生活のために働いていました。そして、同じ仕事を一生続けるのが全くふつうでした。職業選択の余地はあまりなく、人々は基本的な生活に必要なお金をかせぐために働きました。50年前は、同じ雇用者のもとで、一生同じ職業を勤めるのはごくふつうでした。21世紀では違っています。ジョン・スチュワート(原注3)は、「昨今の職場ストレス」というニューヨーク・タイムスの記事で、ニューヨーク大学の社会学者リチャード・ソネットの調査を引用しています。ソネットは、

短期大学2年を修了した平均的なアメリカ人は、退職するまでに11回職業を()えると算定しました。こういうことが起こるのは、人々が自分の仕事に満足していないからだとソネットは示唆(しさ)しています。現代人の人生にとって、仕事は、かつてそうであったよりも、当然のように重要なポストを占めています。その結果、家庭生活に潜在的(せんざいてき)な代価が支払われます。

 

 第一次・第二次世界大戦の後、女性が仕事において、より確固たる地位を占めることが前提となりました。かつて多くの女性が戦争のために軍需工場や農場で働き、男性の人口は戦争のために減りました。しかし一方で、第二次世界大戦は仕事場で働いている女性の姿勢を特別に変えました。この変化は、いくぶん表面的でした。第二次世界大戦が終わると、女性が職場で働いている風景がふつうになりました。管理的な役割や、仕事のサポートの役割を果たすようになりました―秘書、保育士、小学校の先生が1950年代から1960年代にかけての女性の主な仕事でした(原注4)。女性の得る収入は、同等の男性のサラリーと比べて、しばしば非常に少なく、「なみだ金」のようでした。収入を得ること自体は素晴らしいことでしたが、見苦しくない生活スタイルを維持するには充分ではありませんでした。

 

 しかし最近になると、女性の雇用はドラマチックに上昇しました。1971年には

45%の子ども扶養所帯が2種類の雇用先を持っていましたが、これが1999年には66%に上昇しました(原注5)。2005年には、働くことができる年代の女性のおよそ70%が仕事に従事していると算定されました(原注6)。これは1950年代の世の中とはシャープに異なっています。

 

 もう一つ想定できることですが、1950年代では、妊娠した女性はいったん仕事を離れると、子どもが成人するまで仕事に戻らないか、あるいは、もう二度と戻らなかっただろうということです。2005年では子どもを持つ女性の53%が職業に就き(原注7)、63%の女性が赤ちゃんをかかえながら12週間後には元の職場に戻り、このうち半数の女性が戻ってからフルタイムで働いています。

 

統計が示す「働く母親」というコンセプトは全く最近の現象です。多くの女性が就労しながら、仕事と家事のバランスを取っています。彼女たちはしばしば、シングルの親です。しかし、女性が家族のために働き、収入をかせぐという実情は、単純なことではありません。「仕事の世界」に住む女性が多くなりましたし、また多くの女性が(訳注 お産の後も)職業に戻ること、仕事を続けることをポジティブに選択しています。

 

 職業を持つ女性の大多数はそれをポジティブに考えており、これは多くの点で「伝統的」家庭生活に影響を与えました。一方これが、私たちが仕事と生活のバランスを取ろうとする際に、心理的な悩みが発生する率と密接に関係しているようです。

 

仕事と生活とのむずかしいバランス

 1950年代では、仕事は目的のための手段だったと言っていいでしょう。目的とは、生き残ることです。人々は生きる糧を得るために働きに出ました。この単純なモデルが、1950年代の多くの家庭で、仕事と生活の明快なバランスを作っていたことは間違いありません。今日では、様相が変わっています。人々は、その仕事自体が本来備えているあり様に関心を寄せ、仕事が自分の人生にどんな意味や価値を持つのか問いかけます。しかし、正反対のことを言うようですが、多くの人たちにとって、家庭や、レジャーや、旅行や、肉体的・精神的な健康の方が、仕事より重要なように見えます。人々は(訳注:プライベートな生活も仕事も含めて)人生のあらゆる機会において、主体的でありたいのです。私たちの人生に対する期待が増えましたから、私たちが仕事に大きな期待を抱くのも驚くにはあたりません。こういう逆説的なことがありますから、仕事と生活のバランスを取るのは難しくなりました。そこで知らないうちに見過ごされているのは、子どもたちです。

 

 21世紀では、仕事と生活の境界に一線を引くことがますます難しくなりました。携帯電話が普及して、かつて私たちがそうであったよりも、すぐに呼び出しができるようになりました。ですから、どこにいようとおかまいなく、問題があればすぐ同僚に呼び出しがかけられます。ノート・パソコンがあれば、インターネットを通じて、いつでもどこでも仕事ができます。リックが一緒に仕事をしているダブリン(訳注:アイルランドの首都)出身の高官ショーンには、ケータイとノート・パソコンを使って、休日でも連絡がつきます。ショーンは、ホテルのプールのそばから、ノート・パソコンのスプレッド・シートで計算をし、アイルランド共和国と、北アイルランドに広がる彼の組織の他のメンバーに会議の招集をかけることができます。非雇用者の期待と雇用者との関係において、生活と仕事のバランスが取りにくいことを嘆くのはたやすいことですが、問題はもう少し複雑です。ディークス(原注8)の調査によると、(訳注:テクノロジーの発達を)私たちの家々への侵入と考える必要はない、とのことです。彼の全ヨーロッパの調査(ちょうさ)によれば、70%の人たちが自宅からの電波通信に興味を示しています。こうして見れば、テクノロジーは「仕事の世界」に対して、ネガティブにもポジティブにも影響を及ぼしていると思われるのでこの世界とテクノロジーの関係は複雑です。ただ、かつて1950年代に実際にあった仕事と生活のバランスありさまと、21世紀の仕事と生活のバランスの調査結果のありさまとは、対照的です。この現代のアンバランスの矢面(やおもて)に立たされて、潜在的な被害に会っているのが、子どもたちです。

 

心理的な悩み 

 この50年間の間に、精神的な病の流行は、巨大なほど増しています。この増加の一部は、少なくとも、これまでに引用したことの代価です。現代の職場は、かつてそうであったよりもはるかに安全であり、関連して言うと、私たちの両親や祖父母の時代よりもっと良くなりました。にもかかわらず、私たちが経験していることは、病気で仕事を欠勤するという悲しい傾向が続いているということです。

 

 2004年に、5年間で初めて職場の欠勤率が上昇しました。これは、かつてあった日々の心理的な悩みと比較して見ると、格別に興味深いことです。毎年、心理的な悩みは、さまざまに形を変えて、多くの人の勤務の日が失われてゆきました。2002年から2003年にかけての、英国の非肉体労働者の病欠の2番目の大きな原因が、ストレスであることが実証されています(原注9)。これらのケースは、結果として長期の病気をまねきました。1年につき、130万日の欠勤は、英国で3億8000万ポンドの損失になります(原注10)。世界保健機構(WHO)の報告によると、2001年にうつ病になった人は、34億人に達しました(原注11)

 

 この本の前に出た書物「希望の国へ」で、リックは心理的病気のほとんどが、私たちの人生への期待が非常に増したという事実から来ていると言っています。この期待は、私たち自身が目に見えるものからやってきます。家族、友人たち、職場の同僚、また、ますます力を増すメディアのメッセージ。これらが、私たちの生活面に多くの影響を及ぼします。私たちは、成功する経歴、よく適応する子どもたち、配偶者との完全な人間関係、理想的な家庭、最新のテクノロジーを得なければならない、というプレッシャーを感じます―要するに、私たちはすべてを得、今、すべてを得る必要があると感じます。21世紀のこの現象の結果として、成人のストレス、不安、「うつ」のレヴェルは増大し、それがまた、子どもたちと成人の精神的状態に働きかけます。

 

 最近の調査では、私たちは、物質的にますます豊かになるにもかかわらず、かつてそうであったよりも、ずっと不幸であると言っています。世界保健機構(WHO)(原注12)は、開発国の国々では、西洋諸国の住民に比べて、人々はずっと豊かでないにもかかわらず、うつ病は少ないと報告しています。同じ報告では、開発国の住民の15%が、今まさにうつ病にあると算出しています。BBCテレビシリーズ特集/「幸福の秘訣(ひけつ)」/2006年6月の放送では、ロンドン経済スクールの調査研究者が「幸福になるためのレシピは何か?」という質問を投げかけました。その結論の鍵の1つは、幸福になるための影響力が大きいのは、収入ではなく、友情であるというものでした。

 

 まとめて言うと、21世紀の世界は、1950年代と非常に違っているということです。いろいろな社会―経済的要因の結果、現代の子どもたちを育てる家庭生活は急激に変化しました。また、私たちの祖父母が経験した人間関係とは違って、私たちの職場の人間関係はより一層複雑になりました。大多数の人たちの、仕事それ自体、それから日常生活に抱く期待は異常にふくれあがり、非現実的です。その結果として、この非現実的な期待の増すことによって、現代生活で私たちが経験する心の悩みのレベルは一層高まることになり、その現象が、成人と同じように、わが国の子どもたちにも現われるようになったのです。

 

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